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蜂蜜エッセイ応募作品

冬の朝、二人の日課

アサト

 

 母と私は、冬の朝、あることで勝負をしている。
 それは力比べである。スーパーで買ってくる700グラムの蜂蜜のボトルを五秒間ギューッと絞り、どちらが多く蜂蜜を出せるか…という、ただそれだけの勝負。なぜ冬の朝だけかというと、熱い紅茶にたっぷりの蜂蜜とレモンを入れて飲むのが格別だからだ。
 だが、寒い時期の蜂蜜は固く、ただ絞り出すだけとはいえなかなか大変な作業だ。だから少しでも面白くするため勝負にしよう、というのが始まりだったのだが、私は母に勝ったことがない。母の紅茶はいつも甘くて美味しく、私の紅茶はレモンの酸味ばかりが主張してくる。私は結局、ズルをしてスプーンで直接蜂蜜を掬って入れてしまうのだが、それでも母の紅茶に比べると美味しくない気がしてならなかった。
 ある日、使っていた蜂蜜が別のメーカーのものに変わった。味が少し劣るような気がしたけれど、安売りしていたものだと母が言っていたので仕方ないか、と私はあまり気に留めていなかった。
 すると、母が尋ねてきた。
 「いま食べてる蜂蜜って、前のと比べてどう?」
 「あまり美味しくない気がする。安売りしてたやつだからかな」
 「そうかぁ。あたしは、味の違いがわからんのよ。蜂蜜、そこまで得意じゃないから」
 私は、「えっ!」と声を出して驚いた。蜂蜜が苦手なら、なぜ毎朝、あんなにたっぷり絞っていたのだろう。
 「そりゃ、勝負ごとに手は抜かんよ」
 そう言ってニヤリと笑う母を見て、私もなんだか笑ってしまった。娘相手に本気を出し、苦手な蜂蜜が入った紅茶をしたり顔で飲む母の姿は、まるで大きな子どもみたいだ。
 そんな母は、今年で還暦になる。だというのに、私は未だに一度も勝てていない。
 私が勝つのが先か、母が蜂蜜嫌いを克服するのが先か。その結果を楽しみにしながら、私は朝になるとかじかむ指で蜂蜜のボトルを絞る。

 

(完)

 

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