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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

琥珀の匙

抹茶

 

 私の祖父母はいちご農家をしていた。小学生の私はときどきその手伝いに行っていた。
あるとき私は、ハウスにいる祖父母にご飯ができたと伝えるよう母から指令を受けた。祖父母の家からいちごのハウスまでは少し距離がある。初めはその道のりを意気揚 々と進んでいたのだが、その一歩手前で足を止めた。それはハウスの傍に置かれた黒い箱のせいである。箱のからは小さな物体がしきりに出入りしていた──ミツバチである。ミツバチは受粉を手伝ってくれるらしいが、教室に小さなハチが侵入しただけで大騒ぎする年頃だ。何匹ものハチが仰 々しく飛び回る様は恐怖以外の何物でもなかった。いつまでも立ち止まっていると偶然にもハウスの中から祖父が出てきて、こちらの様子に気が付いたようだった。
 「そんなとこでなんしょっとか」
 涙目でハチが怖くて通れなかったことを説明すると祖父は笑った。そして、スズメバチなら危ないがミツバチはおとなしいから大丈夫だと窘めるように言った。
 それでもその場から動かない私を見て、祖父母はすぐそばの小屋に入ると何かを手に戻ってきた。それは何かを乗せた匙だった。
 「ほら、食ってみんか。取りたての蜂蜜たい」
 戸惑う私をよそに、祖父は匙を突き出してくる。「昼ごはん前に食べたことはお母さんには黙ってやるけん」という言葉を聞きながら私は恐る恐るそれを受け取った。琥珀のような美しさにどきどきしながらそれを口に含む。その瞬間押し寄せた甘さに私は思わず唸った。頬が落ちるとは多分こういうことを言うのだろう。
 「うまかか?」と聞く祖父に私はうんうんと頷いた。
 今思えばこんなに都合よく取りたての蜂蜜があるかは怪しいものだが、祖父が私の恐怖を取り除こうと思っての事だろう。真偽はどちらでもいい。それまでミツバチは苦手だったが、そのときからその甘い味を連想させるものになった。それ以降私はハウスの前を通るのも少し怖くなくなった。

 

(完)

 

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