宮沢早紀
「ジャムとバター、どっちも塗るとおいしいんだよ」
朝食のトーストを前にした私は得意げに言った。まだ幼稚園生だった私が祖母と旅行へ行った際の、ホテルでの朝食だった。祖母はにこりと笑って言った。
「もっとおいしい食べ方があるのよ」
その時に教えてもらったのが蜂蜜だった。
ヨーグルトのコーナーに置いてあった蜂蜜を取ってきた祖母は、フタをスライドさせてトーストに蜂蜜をゆっくりと落とした。ねっとりとした蜂蜜がきつね色のトーストの上でキラキラと輝いた。
「ほら、食べてごらん」
祖母はきれいに蜂蜜を広げたトーストを私に差し出した。おそるおそるトーストをかじった私だったが、ジャムとは違うねばり気と甘さにびっくりした。それまでも、母の料理の隠し味などに蜂蜜が使われていたことはあったのかもしれないが、蜂蜜そのものをしっかりと味わったのはその時が初めてだった。
「おいしいね!」
私の言葉に今度は祖母が得意げに言った。
「体にも良いのよ」
祖母からは、蜂蜜が薬としても使えることも教えてもらった。喉がイガイガする時はスプーン一杯分の蜂蜜を舐めたら良いことや、唇がガサガサになった時はちょっとだけ蜂蜜を塗れば早く治ること。祖母の小さい頃にはやけどの傷を治すのにも蜂蜜を使ったという。私にとって蜂蜜は魔法のような食べ物だった。
私に蜂蜜を教えてくれた祖母は、昨年末に他界した。蜂蜜を見る度に祖母との思い出が蘇る。いつか私がおばあちゃんになる時が来たら、孫にも蜂蜜のことを教えてあげたい。
(完)
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