川部翔大
「――口内炎はね、蜂蜜を塗ると早く治るんだよ」
幼少期。夏休みなどの長期の休みに入った頃、帰省した先の祖母が教えてくれたことだ。
私は昔から口の中を噛むことが多く、その度に口内炎を作ってしまうことが多かった。
祖母もそのことは知っていたから、私が帰省する頃にはいつも蜂蜜を買っていてくれていたと思う。そして、私が口の中を噛むたびに蜂蜜を塗ってくれたのだった。
「蜂蜜を塗っただけで治るものなの? 痛いだけだよ」
と、蜂蜜を塗るたびに走る激痛が嫌で、私は祖母に聞いてみる。
すると、決まって祖母はこう答えるのだ。
「おばあちゃんの口内炎はすぐに治ってるから、しょーちゃんのもすぐに治るよ」
昔から口内炎が出来るたびに、こうして蜂蜜を塗ってるから大丈夫。
そう言い聞かせてくれた祖母の言葉を信じて、私は痛いのを我慢して傷口に蜂蜜を塗る。
途中、口内に広がる甘味の誘惑に負けて、蜂蜜を舐め取ってしまったこともあったが、祖母は呆れも、怒りもせずに蜂蜜を塗りなおしてくれた。
そんな祖母は、私が中学生の頃に亡くなった。
当時は辛くて、悲しくて、祖母との記憶を思い出すたびに、胸が締め付けられるような想いに駆られたものだ。だからこそ、意図して思い出さないようにもしていた。
だが、時が過ぎて、祖母との別れを受け止めて立ち直ることが出来た現在。
私は祖母との思い出を胸に生きている。
口内炎が出来るたびに、祖母の言葉を思い出すのだ。
「――口内炎はね、蜂蜜を塗ると早く治るんだよ」
(完)
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