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蜂蜜エッセイ応募作品

おじさんの最後のハチミツ

井上文子

 

 東京在住の私たちが、岐阜の秘湯のオーナー夫妻と親しくなったのは、今から7年ほど前のこと。乳がんにかかった私の湯治で訪れた秘湯の湯宿は、なんとも心地よく、宿の庭園の澄んだ川が息子のお気に入りの場所だ。まだ幼かった息子を、オーナー夫妻は実の孫のように可愛がって下さり、毎年私たち家族が訪れるのを楽しみに待ってくれるようになった。
 それが今から3年ほど前の秋、突如オーナーがご逝去されたという訃報の連絡が入り、驚かされた。というのも、わずか2か月くらい前に伺った際にはお元気だったからだ。しかも、この年は散歩中にばったりオーナーと出会い、昆虫の中でも特に蜂が好きな息子のために、ご自宅の庭で育てているミツバチの養蜂を見せていただくという貴重な体験をしたばかりだった。
 オーナーは生き物が大好きで、庭には巨大な池があり、そこで鯉を育てているほか、最近始めた養蜂を息子に是非見せたいと庭にいれてくださったのだ。ミツバチの巣の近くに、大きなスズメバチがきたのを、ガードもせずハエ叩きでバチバチと叩く勇ましい姿が頼もしく、家族で尊敬の眼差しで見つめたあの場面が今でも忘れられない。
 お電話で訃報を知らせてくださった奥さんにその話をすると大変喜ばれ、「誰にも見せたことのない養蜂を、大好きな息子さんにみせれてあの人は満足できたことでしょう」を涙ながらに語ってくれた。
 それから数か月後、奥様から荷物が送られてきました。中には琥珀色の美しいハチミチの瓶詰が。お便りには、「おじさんがとった最後のハチミチです。是非、おじさんが大好きだった息子さんに食べてもらいたいので送ります」、と書いてあった。
 我慢できずおじさんのハチミツをスプーンですくって、息子と一口味見した。おじさんのハチミツは濃厚だけど雑味のない崇高な味がした。「世界一おいしいね。おじさんに感謝しながら大切に食べよう」と語り合った。大切なおじさんの最後のハチミチは、今でもあと少し残してある。

 

(完)

 

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