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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜と旅立ちの春

君島ひかる

 

 琥珀色に輝く、とろとろの液体。光に透けさせると、それはキラキラを増して、とても綺麗だ。その透明な蜜を、銀色のスプーンいっぱいに垂らしては、大きな口を開けてペロリとひと舐め。その美味しさは格別!スプーンからあふれるほどの蜂蜜は、私にとって幼い頃からの最高のおやつだ。
 この蜂蜜のたのしみ方は、子供ならではの特権のような気がする。少し、行儀が悪いというか。大人になったらしてはいけない、子供だから許されることのうちのひとつ。スプーンいっぱいの蜂蜜はこんなにも美味しいのに、それをいつしかしなくなるような、できなくなるような感じがする。今だけの特別な、もしかしたらもうすでにしてはいけないのかもしれない、そういうたのしみ方。
 蜂蜜と言えば、それをつくる蜂のことが頭に浮かぶ。私の家の花壇には、この家が建った私が2歳の時から、一本のさくらんぼの木がある。その花が満開になって、そこにせっせと蜜を集める蜂が飛んできて、少しくすぐったいあたたかな風が吹くと、この家での春を感じる。私の妹は小学生の時、そのさくらんぼの木の周りにやってくる蜂を怖がって、泣きながら逃げていた。ここには確かに毎年、私と、私の家の人と、私の家の春があった。
 この春、私は社会人になる。4年間通った大学を卒業し、長かった学生生活が終わる。その際、ずっと住んできたこの家を出て、ひとり暮らしをするかもしれない。まだちゃんと決めていないし、親にも真剣に話していないけれど、私はここを出たいと思っている。本当は離れがたく、さみしく思いながらも、私はここから出て、新しい生活をはじめたい。もしこの家を出たら、さくらんぼの木やそこを飛びまわる蜂、怖がる妹、鼻をかすめる風などの、この家での春の記憶を思い出すのだろうか。そうだとしたら、ここにいた時のことを思って、なつかしく愛おしい気持ちになれたらいいな。
 子供から大人に変わっていく。でも、まだほんの少しのあいだ子どもでいたい私は、スプーンいっぱいのはちみつを、今日も舐めている。

 

(完)

 

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