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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

琥珀色

蜂の旅

 

 もうすぐ母親の七回忌が来る。
 日 々の生活の中、母について思いを巡らすことは随分と少なくなった。けれどまるで小さな石に躓くかのように、ふとしたことで母の想い出が蘇ることがある。
 母の影響で食卓の上には蜂蜜が欠かせなくなっている私だが、蜂蜜にまつわる母の想い出は、つい最近までその甘さとは反対にいつもちょっと苦いものだった。
 私に輪をかけて蜂蜜が好きだった母はよく、栄養があるからとか体の悪いものを消してくれると言っては何にでも蜂蜜をかけて食べていたし、息子の私が生活していたドイツを一人で訪ねてきたときには、青空市場に出ていた養蜂家の屋台で珍しい蜂蜜をあれこれ試食し、言葉が通じないはずのご主人とほとんど打ち解けていたくらいだった。
 そんな母が病に倒れ、もう病院から自宅に帰るのは難しいと医師に告げられて、私は母が一人で住んでいた部屋を片付けることにした。ものを捨てられない母の部屋のどこから手をつけたら良いか途方にくれたが、食べものだけは処分しようと決めてキッチンシンク下の扉を開けた。
 一瞬、言葉を失った。そこには、琥珀色に光る大小様 々な瓶がびっしりと並んでいる。手にとってみるとそれは、蜂蜜やお酒に漬けられた果実や根菜、なかには正体不明のものまであった。そのあまりの量に最初は圧倒された。そして次第に、一人の部屋でそれらを作り溜め込んだ母の気持ちを考えるたびに、苦さと痛みを感じずにはいられなくなっていた。
 けれど自分も五十代に突入した最近になり、ふとあの琥珀色は健康に生きたいと願った母の意志の色だったのではないかと思い当たった。そしてその考えが日毎に確信に近くなっている。
 食卓の上の蜂蜜の瓶。その琥珀色を眺めていると、励まされているような、何故かいつもそんな気になる。

 

(完)

 

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