渡辺 碧水
二〇一九年四月、「ニホンミツバチの防衛特技」の題名で、スズメバチに対抗する「熱殺蜂球」について本欄に寄稿した。その際、これは日本蜜蜂にしかできない特殊な技で、輸入蜂の西洋蜜蜂にはできない独特の防衛術だと紹介した。
ところが、同年十二月、本欄に掲載の端広こうさんの寄稿「蜂蜜の論文に感動」には、「スズメ蜂が巣に侵入してきた時、どちらも熱殺蜂球という方法をとる」とあった。西洋蜜蜂は「熱殺蜂球に至る前に巣が全滅してしまうことが少なくない」とも書かれていた。それにしても、西洋蜜蜂の熱殺蜂球形成は初耳だった。
勉強不足を感じた私は、その内容をぜひ知りたいと、ネット上で公表されている学術論文等を探してみた。残念ながら「西洋蜜蜂も熱殺蜂球を形成する」との記述は見つけることができなかった。
だが、その過程で、西洋蜜蜂は「窒息スクラム」という対抗手段を採っていることがわかった。
西洋蜜蜂は、上限致死温度が東洋蜜蜂(日本蜜蜂を含む)よりも低いため、蜂球を作ることができない。そこで、やはり大群でモンスズメバチの腹の周りを圧迫し、呼吸困難にして約一時間かけて窒息死させる手段で応戦する。
ただ、この手段も小型種にしか対応できず、大型で体力があるオオスズメバチの襲撃には対抗できない。
これは、一部の地域を除いて、日本で野生化した西洋蜜蜂がほとんど繁殖していない事実でわかる。一八七七年に輸入された当初、繁殖力の旺盛な西洋蜜蜂が野生化し、日本蜜蜂を駆逐してしまうのではないかとの懸念があったが、杞憂に終わっている。
養蜂場を逃げ出した蜂が野生で繁殖しようとしても、天敵オオスズメバチによって全滅させられるためと考えられる。
なお、チームプレーによる日本蜜蜂の「熱殺蜂球」は、玉川大学の研究チームによって解明され、一九九五年、世界的に権威ある総合学術誌『ネイチャー』三七七号で発表された。
また、西洋蜜蜂による「窒息スクラム」は、ギリシアのアリストテレス大学の研究チームによって解明され、二〇〇七年九月、英国科学誌『カレント ・バイオロジー』で発表された。
(完)
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