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蜂蜜エッセイ応募作品

秘密の蜂蜜

太田恵

 

 若い時に海外で過ごしていた経験のある父は、世界地図を幼い私に見せながら、世界の美味しいものの話をよくしてくれた。中でもヨーロッパの農家で、仕事を手伝ったお礼に戴いた蜂蜜の話は定番だった。巣箱から出してすぐの、花の香りが漂うトロリとした蜂蜜を壺いっぱいにもらった話の後は、母に蜂蜜を頼むのが父のルーティンだった。つやつやの蜂蜜をかけた果物のお皿がおやつに出されるのもまた嬉しくて、何度もその話をおねだりしたものだ。海外を思い描かせる、甘くて美味しい最高のおやつだった。
 やがて社会人となり一人暮らしを始めた。休日にスーパーの食品フロアへ行き自炊用の材料を買っていると、「蜂蜜」という文字が目に飛び込んできた。アカシアと書いた蜂蜜の瓶を見ると黄金色の液体が入っている。我が家で食べていた蜂蜜は透明だった。安物だから色が薄かったのだろうか、これならさぞかし美味しいだろうと、わくわくして手を伸ばした。部屋に戻り、昔母がしてくれたように、冷蔵庫にあったりんごを切り、アカシア蜂蜜を垂らして口に入れた。甘い香りが口いっぱいに広がりなんとも芳醇、父の声を懐かしく思い出した。それにしても、と不思議に思い、その晩母に電話して尋ねてみた。「昔食べていた蜂蜜って透明でただ甘いだけだったよね。今日買ったのは黄金色で味も違ったよ。」途端に、電話口で母が笑い出した。「あれ、蜂蜜じゃなくて水飴だったの。本物は隠してあって、お父さんが一人だけこっそり毎日ひと匙戴いていたのよ」
 大人になっても気づかなかった私はおかしいやら恥ずかしいやら。それ以来、実家に帰ると食卓には本物の蜂蜜が置かれるようになった。毎日ひと匙の蜂蜜のおかげで大病にもならず、父は九十歳近くまで元気だった。
 日 々、私も朝一番にひと匙の蜂蜜を戴いている。こっそりではないけれど。

 

(完)

 

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