田中麻里
「これさえ飲んどいたらええんや」と父が密やかに毎日欠かさず摂取していた秘薬、それがプロポリスである。それ何ー?ちょっと頂戴よーと言って頼んでみても「あかん、これは高いんやでぇ、疲れた大人だけの特権なんや、あんたにはまだ早い」と軽くあしらわれ、それと同時にプロポリスという謎の秘薬はまだ幼い私に対して、ますます何か云い知れぬ孤高の存在感を与えて止まなかった。それから月日は流れ、私は大人になり好きな物を好きなように買えるある程度の財力を手にした。そしてある日、何気なく通りかかったデパートの健康食品コーナーの一角に、異様に格調高く一際に荘厳な輝きを放つその箱を見つけた。思わず二度見をする価格である。そりゃあ1日や2日寝なくともピンピンしていられる様なちびっ子に生半可な気持ちで分け与えられるような代物では無いよな、父さん今やっと分かったよ、と今だに元気もりもりである父をふと思った。ただどうも最近あれを見ないなと薄 々感じていたのではあるが、どうやら秘薬の存在は最も孫の甘やかし代にかき消されてしまっているらしい。そうか今こそ恩を返す時なのだと、私は2つ箱を手に取りレジへと向かった。1つは父さんへ、1つは大人になった私へ。勿論、娘達には秘密である。何故ならばプロポリスという秘薬は、疲れた大人だけに許された特別な秘宝なのだから。
(完)
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