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スプーン一杯の蜂蜜

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 スプーン一杯分の蜂蜜を飲む。
 じいちゃんはそれを毎日欠かさずしてきたらしい。
 それを知ったのは、大分に旅行に行った時である。ばあちゃんと母親と私、女3人の小旅行。じいちゃんは仕事。これはこれで良し。
 女3人気兼ねなく、小旅行を楽しむ。食べ歩きをしたりお土産を見たり、ばあちゃんはいつの間にかベンチに座って日向ぼっこをしながらうたた寝。
 帰り際、通り道に蜂蜜の専門店があった。見た目も可愛くて中に入ってみると、ばあちゃんが興味深 々で見始めた。
 蜂蜜すきだったっけ?と聞いてみると、「じいちゃんによ」と笑う。「じいちゃん蜂蜜が好きだったっけ」と聞いてみる。横から母が言う。
 「じいちゃん、毎日欠かさずスプーン一杯蜂蜜飲むんだよ」と。初耳である。少なくとも私の母が物心つくころにはやっていたのだとカラカラ笑いながら教えてくれた。
 新たなじいちゃんの一面、今まで知らなかった。
 そうか、じいちゃんの健康な身体は蜂蜜で出来ていたのか、と1人感心する。80を超える祖父は私の記憶の中で大きな病気をしたことはなかった。剪定の為に自分で木にも登る。
 蜂蜜って身体に良いと聞くもんなぁと考えていると、良さそうな蜂蜜があったのか、ばあちゃんが「コレにする」と言ってお会計に行った。ついさっきも「これじいちゃんに」と別のお店でお土産を選んでいたのに。自分の物はあんまり買わなかったのに。
 お会計を済ませて蜂蜜の瓶が入った袋を手に歩いてくるばあちゃん。満足げなばあちゃんを見て思った。
 じいちゃんの健康を支えているのは毎日欠かさずのスプーン一杯の蜂蜜、そして妻の愛である。
 後日、じいちゃんが蜂蜜を飲んでいる所を見た。じいちゃんよ、その蜂蜜には愛情がたくさんだよ、養蜂場さんの 愛情とばあちゃんの愛情がたくさんだよ。
 御年84歳、本日も健康なり。

 

(完)

 

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