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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

一さじの魔法

みよこ

 

 「どうや、紅茶でも飲むか」
 怒ると怖い父が、時折子供相手に紅茶をふるまうことがあった。それは、小学生だった私が母に叱られ、いつまでも泣きやまないときや、秋の夜長をしっとり楽しみたいとき。
 もっとも、ティーパックを浸すだけのたやすい方法だが、父のこだわりは一さじの蜂蜜を垂らすところにあった。湯気の立つ琥珀色の紅茶に、きらめきながら滴っていく黄金色の蜂蜜。苦いお茶が、一瞬にしてまろやかで芳醇な飲み物へと変わる、一さじの魔法。
 父の所作を手品でも見るように、不思議そうに眺めていると
 「これは体にもええんや。カサカサ唇も一塗りするだけで、いっぺんにしっとりやで」
 茶目っ気たっぷりに、父のうんちくが始まった。そこで試しに塗ってみたものの、食いしん坊の私はすぐさま唇をペロリ。
 当時は今ほどお菓子が潤沢になく、十円玉を握りしめて駄菓子屋へ走る毎日の中、蜂蜜は格別ぜいたくな食べ物だったのだ。そして優しい甘みは、普段あまり話さない父との心の距離を縮めてくれた。
 でも、養蜂家から頂いた貴重な品は一瓶のみ。大切に少しずつ使っても、つい底を突く。すると父は紅茶を入れなくなり、我が家のお茶会はそれきり開かれなくなった。
 少し寂しく感じたが、大人になりコーヒーを好むようになると、いつしか蜂蜜のおいしさを忘れていった。
 ところが先日、思いがけず飴色の瓶を親戚から頂いた。蓋を開ければ、懐かしい匂い。子供の頃の記憶が、ふつふと蘇ってくる。
 改めて調べると、疲労回復や整腸作用、アンチエイジングなど、健康と美容に役立つ嬉しい効能が盛りだくさん。体にいいと言っていた、父の声が耳の奥で聞こえるようだ。
 秋の夜長、亡き父をしのびながらの、魔法の一さじ。滋養豊富な蜂蜜は、かぐわしい香りとともに、ゆっくり紅茶に溶けていった。

 

(完)

 

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