進藤 彩
四歳年の離れた弟が小学一年生になったとき、私が作ったルールは、日曜日の朝食は私と弟で作る、というものだった。毎日仕事で忙しいお母さんに変わって、日曜日だけは二人で朝食を作る。よく作った料理はフレンチトーストだった。
私も弟もフレンチトーストが大好きだったし、とても簡単に作ることができる。私が牛乳に浸ったパンを焼いている間、弟は泡立て器で生クリームを作った。焼きあがる頃にお母さんとお父さんを起こしてきて、アツアツのうちに生クリームと、おばあちゃんがくれた蜂蜜をたっぷりかける。四人でテーブルを囲むと、甘い香りに笑顔が溢れた。
今年、東京の大学に進学して一人暮らしを始めてからは、そんな日曜日はもうない。一人で目覚めると、コンビニで買ったおにぎりを食べるような毎日だった。ふいに、インターフォンが鳴る。受け取ったダンボールにはおばあちゃんからの手紙と、見慣れた蜂蜜の瓶が入っていた。「甘いもの食べて元気出して」
家の近くのスーパーへ行った。四枚切りの食パンと牛乳を買う。何度も作った日曜日の朝食を、今度は一人で作った。あの頃を思い出しながら作ったフレンチトースト。アツアツのパンの上に生クリームと蜂蜜をたっぷりかける。一口食べると、口いっぱいに甘い香りが広がって、家族四人で囲んだ日曜日の朝が浮かんだ。懐かしくて、胸の奥が熱くなる。ありがとう。私も東京で頑張るね。遠い街にいる私の家族へ、そう呟いた。
(完)
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