渡辺 碧水
世界的ベストセラー小説が、二〇一八年六月、日本でも翻訳 ・発売され、話題を呼んでいる。
小説の中ではあるが二〇九八年、基点を今の二〇一九年にすると七十九年後、原作刊行の二〇一五年にすると八十三年後の話。世界は、環境破壊が深刻化して生物種は激減し、人類は存亡の危機にさらされている。
二〇四五年には、地球上の蜜蜂は絶滅していて、授粉ができずに農作物の食料生産が激減していた。人工授粉の仕事で生計を立てている中国の農夫の家族に不幸が起る。
そんな想定の物語を一つ組み込み、過去 ・現代 ・未来の三家族の物語を同時進行する小説は、ノルウェーの作家マヤ ・ルンデ著の『蜜蜂』(原題『蜜蜂の歴史』二〇一五年原作刊)である。
この作品はフィクションであるが、アメリカのジャーナリストのローワン ・ジェイコブセン著のノンフィクション『ハチはなぜ大量死したのか』(原題『実りなき秋』二〇〇八年原作刊)が下地となっているらしい。
この『実りなき秋』は、新種の農薬や殺虫剤がもたらす環境問題に最も早く警鐘を鳴らした著書で、アメリカの環境運動家レイチェル ・カーソン著の『沈黙の春』(一九六二年原作刊)の題名を意識した書名になっている。
鳴く鳥もいない『沈黙の春』と同じことが、蜜蜂の大量死の『実りなき秋』にも起きた。これらの警鐘を引き継ぐ形で『蜜蜂の歴史』が予測的に書かれたというわけである。
話題作『蜜蜂』は、二十世紀末ごろから世界各地で実際に発生している蜜蜂の謎の大量失踪 ・大量死「蜂群崩壊症候群の現象」を念頭に、「もし蜜蜂が姿を消したら、世界はどうなる?」と問いかけで始まる物語であり、予言的な小説とも言える。
アインシュタインが言ったとされる言葉「蜜蜂が絶滅すれば四年後に人類が滅びる」もよく引き合いに出されるようになった今日、小説で描かれた仮想はフィクションであり続けるのか、それとも現実のものとなるのか。専門家の見解にも目を向けてみよう。
【蜜蜂は絶滅するか(後)へ続く】
(完)
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