みなと
「モチおじさんは、どうしてあんなに澄んだ目をしているんだろうね」
このことが私の家族のなかで時 々話題になる。モチおじさんというのは、今年92歳になる父方の従兄で、人生の大半を、蜜蜂を追う旅で過ごした人である。
日本列島の端から端まで、本当に詳しく知っていて、どこそこの窪地には柔らかい蕗が群生している、というのが、とんでもない遠い地方だったりする。
私たちは子どももみんな、モチおじさんの人柄に惹かれている。遊びに行くと、先ずは蜜蜂や、蜂飼いの話を聞く。お土産には大きな瓶に入った蜂蜜を持たせてくれる。
そんなモチおじさんが大病にかかり、入院したという。私たちはみんなして病院にお見舞いに行った。ところが――
おじさんはベッドからしゃんと起きているではないか。しかもにこにこ笑っている。
「おじさん、大丈夫ですか?」
「なあに、これがあるでよ」
モチおじさんは枕の下から小さな瓶を取り出してみせた。
「プロポリス、ちゅうもんだ。手作りでな、これがあるから、じき退院だな」
モチおじさんはまた、いたずらっ子みたいにもう一つの瓶を取り出した。
「これもあるでよ、じき退院だ」
「なんですか、それ?」
「ロイヤルゼリーだな。蜜蜂の神さまだな」
なんということだろう、医者も呆れたほどモチおじさんは回復して、三日後には家の庭先で悠 々と蜜蜂の世話をしていた。
92歳のモチおじさんは、少し耳が遠くなってはいるが、相変わらず「澄んだ目」をして縁側に座っている。どうしてあんなに澄んだ瞳のまま人生を過ごせたのだろう。
きっと、蜜蜂の神さまのおかげなんだろうな。
(完)
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