渡辺 碧水
蜜蜂の雄の生態は、シビアな表現で記述されることが多い。
群全体の五~十 %を占める雄蜂は、女王蜂と交尾して子孫を残すだけの存在。普段、働き蜂から餌を貰って巣の中でブラブラしながら生活している。
雄蜂たちは、新女王蜂が性的に成熟して飛び立つと、その後を一斉に追いかける。彼らの交尾遂行は一回だけ。しかも、達成できたら尾部が裂けて死ぬ。未達成なら巣に戻り、また巣の中でウロウロして過ごす。
次のような説明に接すると、同性として同情が加わる。
交尾ができず巣に戻った雄蜂はもうすることがない。餌がある季節はいいが、蓄えが乏しい秋になると、越冬には邪魔だと、働き蜂に巣外へ引きずり出されてしまう。元来、餌を集める手段を知らない雄蜂はもはや餓死するしかない。
無知な私などは、性別の産卵調整ができるのであるから、効率的に一つの巣には雄蜂は数十匹で充分、女王蜂も雄蜂も同じ巣の中にいるのだから、わざわざ巣外に出て空中で派手に交尾を演ずることもない、と思ってしまう。
ところが現実は厳しい。生物の交尾は、愛し合う場ではなく、繁殖をめぐって激しく闘争する場だそうだ。宮竹貴久著『恋するオスが進化する』やドキュメンタリー映画『みつばちの大地』などはその様子を伝える。
前者によれば、熾烈な交尾は「性的対立」が原因。それは「安いコストで作った精子を撒きたい」雄と「限られた卵子になるべく優秀な精子をつなげたい」雌の利害関係が対立する結果起こる。
後者によれば、性的に成熟した雄蜂は、実は毎日、午後のある時間帯、ある場所の空中に他群の女王蜂を求めて出かける。同様に、未交尾の女王蜂も来る。ときには数キロも離れた所から集合。そして、一匹の女王蜂と多数の雄蜂が群がり、乱舞 ・死闘を繰り広げる。
わざわざ巣を出て空中交尾をするのは、同じ巣内の近親交配を避け、より優れた他の群れの異性と交尾するためとか。
成虫化でも性的成熟でも、女王蜂や働き蜂よりも雄蜂は時間がかかる。それも、巣の中で一見ブラブラしているのも、強壮な体を作るためだったのである。「結婚飛行」となる交尾を成就させるために、文字どおり必死の生涯を貫く。
(完)
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