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「虻蜂とらず」の由来(四)

渡辺 碧水

 

 [「虻蜂とらず」の由来(三)から続く]
 筆者(渡辺)は、出典を明らかにしたいと思い、ネット検索でキーワードを変えていろいろ試みた。いくつも同様な記述がでてきても、肝心の引用元が判明しない。
 現れるのは「昭和三十四年(一九五九年)、国文学者の金子武雄氏の発表により、虻や蜂を取ろうとしているのは、蜘蛛(くも)だと解釈するのが主流」と記す酷似の説明ばかり。二〇一九年十一月中旬でも大同小異である。
 最近の諺研究の第一人者 ・北村孝一でさえ、一九八六年刊の当該本の朝日文庫版末尾「解説」で「最初に上梓されたのは一九五九年から六二年にかけて…」と書いている。
 推測されるのは、掲載した文献のどれかが早い時期に発表年の間違いをし、他の文献はその誤記にとらわれて、孫引きを繰り返したのではないかと思われる。
 こだわっていた「一九五九年」をはずすと、検索結果の様相は一変した。
 結果的にたどり着いたのは、一九五八(昭和三十三)年六月一日初版発行の金子武雄著『日本のことわざ(一)評釈』大修館書店刊、二十三~二十四頁掲載の「虻蜂とらず」である。(全五巻の完成は一九六一年九月二十日。この名著は、一九八二年に再刊、一九六九年と一九八六年に文庫版も発行)
 わずか一年、文献の発表年を間違っただけなのに、出典の明記がこれほど長期間混迷した例は珍しい。
 金子の著書の説明は長いので、まず、冒頭の部分を引用する。
 
 虻蜂(あぶはち)とらず
 「虻もとらず蜂もとらず」が原形である。この諺は二つのものを共に手に入れようとして、結局どちらも手に入れられなかったような時に、批評のことばとして用いられる。ところで、この諺の原義はどういうのであろうか。虻や蜂を人間がとろうとしたものだとは考えられない。……

 この記述を読むと、新海記述は金子記述の直接引用ではないと判断できる。
ここで推測した変化は、あくまでも大筋においてであるが、「あぶもとらずはちもとらず」→「虻もとらず蜂もとらず」→「虻蜂とらず」→「虻蜂取らず」と、短小化 ・漢字化の流れである。
なお、同類の「虻蜂取らず鷹(蚊)の餌食」については、後半が省略されて「虻蜂取らず」になったというよりも、他の諺との混同で、逆に「虻蜂取らず」に後半が加えられたものと推測される。
[「虻蜂とらず」の由来(五)へ続く]

 

(完)

 

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