渡辺 碧水
二〇一二年制作、ドキュメンタリー洋画『みつばちの大地』を観た人は「衝撃を受けた。傑作だ」と感想を述べる。私もその一人である。
九十分強の作品の中で、五分ほど中国大陸での取材シーンも組み込まれている。事あるごとに引き合いに出される「蜜蜂が絶滅すれば四年後に人類が滅びる」というアインシュタインが言ったとされる言葉も、この部分で語られる。
花粉供給販売人は二千キロ南の山西省に行き、農家から買い取った果物の木に登り、人手で一つ一つの花冠から葯(やく)を採取し、一つの花からはごくわずかしか採れない花粉を相当量集め、小分けして袋詰めにする。冷蔵庫に入れてトラックで北の地方へ戻る。開花した果樹の授粉期に合わせて、小分けの花粉を販売店に卸す。
花粉を買った農家は沢山の人手を動員して、広い果樹畑の木の花の柱頭(ちゅうとう)一つ一つに綿棒で授粉する。まさに人海戦術と言える人工授粉が展開される。手間と根気と集中力を伴う単純作業と言える。
ナレーションは強調する。
「毛沢東の時代、穀物を食べるので数十億の雀が殺された。その結果、昆虫が異常発生し、それを退治するために大量の殺虫剤が使われて、蜜蜂も犠牲になった」
文化大革命の大躍進政策の時代に行われた雀などの駆除運動は一九五八年二月以降であるから、食物連鎖の生態バランスを無視した結果、約五十年を経ても回復していなかったことになる。未だに蜜蜂が少ない地方では、人間が代わって授粉を行っているのだ。
このシーンは次の言葉で終わる。
「北京大学では、何とこんなテーマで研究が行われたという。『授粉が上手なのは蜜蜂か人間か』。科学者なら断言する。人間ではない、と」
ただし、疑問は残る。十年前とはいえ、蜂蜜の生産も輸出も今は世界一を誇る中国での様子。養蜂業の手段は、蜜源植物を求めで巣箱を移動させるのが普通である。開花した果樹の授粉期に合わせて、蜜蜂の巣箱を設置すれば済むような気もする。そうならない事情があったのか。
(完)
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