渡辺 碧水
DVDでドキュメンタリー洋画『みつばちの大地』を観た。
驚いたのは、最初に登場したスイスの養蜂業四代目という初老の男性の姿である。ラフな服装をして森で野生の蜜蜂の巣を叩き落とす。口に葉巻タバコをくわえ、巣箱に収める作業中、ずっとふかしている。
愛煙家なのだろうと思っていたら、後で同時に女性も登場するシーンの中で、作業中、二人とも葉巻をくわえている場面があった。うごめく蜜蜂に目前で接しているのに、面布も被らず、防護服も着ていない。
はたとひらめいた。蜂に顔を刺されるのを防ぐためにタバコをふかして煙を出しているのではないか、と。二人はベテランのようで、くわえタバコが作業の中に自然体で溶け込んでいるように見えた。
そういえば、養蜂の基本的用具の一つに、巣箱で採蜜などをする際に欠かせない、蜂の動きを一時的に鈍らせるための煙を噴き出す燻煙(くんえん)器という道具があることに思いが及んだ。その安直法?
いや、たぶん逆であろう。蜜蜂と一定の距離を保つ方法として、タバコの煙を吹きかける方法が昔から伝統的に行われていて、それをヒントに燻煙器が開発されたのだろう。
それでは、なぜ蜜蜂は煙を嫌い避けようとする(おとなしくなる)のか。
調べてみると、鈴木養蜂場はちみつ家のブログ(二〇一二年六月五日)で「みつばちの生態」が紹介されていた。
いくつかの説の中の二つが示された。一つは「山火事避難説」で、蜜蜂には、煙を吹きかけられると山火事だと思い、巣に避難しておとなしくする習性がある。(山火事と勘違いした蜜蜂が蜂蜜を守ろうと腹一杯に食べて静かにしているとの解釈もある)
もう一つは「二酸化炭素鎮静説」で、煙の二酸化炭素には動作を鈍らせる鎮静作用があるので、蜜蜂の動きは緩慢になりおとなしくなる。この説のほうが納得できるが、科学的な解明はまだであるようだ。
理由は明確でないにしても、タバコでも燻煙器でも、煙を吹きかけることによって、蜜蜂の行動を鈍らせおとなしくさせ得ることは、既に経験則になっている。
(完)
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