渡辺 碧水
蜜蜂の生命力や行動の意外性に驚かされることがある。いや、自分の無知と先入観に。
報道によると、次のような実例がある。
二〇一〇年、ニューヨーク市の養蜂場で、咳止めシロップのような赤い蜂蜜ができた。蜜蜂は花蜜を集めないで、近隣にあるマラスキーノ ・チェリー製造工場を訪れ、甘い廃棄液体を採集していたのである。
チェリーは、カクテルやパフェなどの添え物に使われる甘いサクランボの砂糖漬け。着色剤で赤く染めたチェリーにはアーモンドの香りが付けられていた。
二〇一二年には、フランス北東部アルザス地方の養蜂場で、普段は淡い赤黄色の蜂蜜がとつぜん青や緑の色に変わり、びっくり仰天のニュースになった。
成分調査で、チョコレートをコーティングするカラフルな砂糖衣の廃棄液体と判明した。蜜蜂が花蜜の代わりに、約四キロ先の廃棄物処理工場から持ち帰っていた。
不自然な着色に騒動になったらしいが、養蜂蜜蜂が巣箱の近辺を飛び回り、探し当てた蜜源から採集して持ち帰り、巣内で蜂蜜化する点では、咲き誇る草木から花蜜を採集してきて作る蜂蜜と何ら変わりがない。
普通、新鮮な蜂蜜の色や味は、蜜源の花の種類で決まる。オレンジの花蜜は明るい赤黄色で柑橘(かんきつ)類の香りがするし、ソバの花蜜は黒褐色で独特な土の香りがする。昆虫が樹液を吸ってできた体外分泌物などを蜜蜂が集めた甘露蜜もまた独特の色と味。
甘いものが大好きな蜜蜂は、甘さ重視で何でも花蜜同様に蜜胃に貯めて持ち帰り、きちんと巣房に貯蔵する。だから、甘さ抜群の廃棄液体物を集めることもあるわけだ。
蜜蜂は勤勉実直だ。蜜源素材の色素のままの蜂蜜を作り出すから、蜜源の多様化を反映して、あらゆる種類の色合いの蜂蜜ができるという時代に突入した感がある。淡い赤黄色のイメージ色はもう過去のものか。
集蜜作業で、蜜蜂は運搬コストも考慮する。巣箱の近くに適切な蜜源がなく、廃液を最適と判断したのかもしれない。日本でも起こり得ることだ。
(完)
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