渡辺 碧水
昨年、妻の両親が遺した家の屋根裏で興味深い古本を見つけた。八十年前の一九三八年三月、野ばら社発行の『學友年鑑 昭和十三年版』で、妻の兄が愛用していたものだそうだ。
妻の子ども時代の本類の中にあった。妻は鮮明に覚えていて、幼少期に、珍しい絵や地図 ・グラフがたくさん載っていたので、よく見て楽しんでいたという。
傷みがそれほどひどくないので確かめると、太平洋戦争末期の絵本類の乏しい時、津市にあった農林専門学校に進学した兄が、十五歳下の妹のために家に置いていき、しかも勉学半ばの十九歳で病死したので、妻は幼心にも大事な形見と思い、丁寧に大切に扱っていたとのことであった。
現代の少年向け『学習年鑑』に相当するが、長年、毎年発行されてきたものであり、時期によっては一年違えば内容が大違い。調べてみると、国立国会図書館を含めて各地の公共図書館で所蔵されている。現存本の最古は新潟県立図書館の一九三六年(昭和十一年)版であり、屋根裏のものはその次に古いとわかった。
昭和十三年版では、日本の領土は現在に加えて樺太 ・千島列島 ・朝鮮半島 ・台湾 ・南洋群島などからなっていた。
領土各地の主産業欄を見てみた。養蜂業(「蜂蜜」と表現)が特に記されていたのは朝鮮地方の「江原道」だけだった。つまり、日本の代表的養蜂地は、現在の朝鮮半島中央東部の山林地帯だったのである。この地域は今も養蜂が盛んだそうだ。
ちなみに、地域名「江原道」はそのまま現在もあり、軍事境界線三十八度線をはさむ関係で韓国と北朝鮮にまたがり、二つの国に同名の行政区画が隣接して存在する。かつては一つの区画であったことを如実に物語る。
形は別国に二分されたが、蜂蜜のまろやかさにあやかり、住民同士は親密な関係にあると思いたいし、そうあり続けてほしいものである。
つい最近、二〇一九年七月、北朝鮮側の江原道地域から何度も弾道ミサイルが発射された。これはいただけない。
(完)
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