渡辺 碧水
以前に「尻振りダンスの自動解読」の技術が開発されたことを書いた。尻振りダンスは実に奥深い。
集団で生活するミツバチは、仲間同士で会話するために、いろいろなコミュニケーション手段を持っている。
中でも有名なのが、一九四八年、オーストリアの動物行動学者 ・フリッシュによって紹介されたミツバチの「尻振りダンス」である。別名「8の字ダンス」や「収穫ダンス」といわれ、ミツバチ特有の情報伝達手段として知られている。
尻振りダンスは、餌(蜜源植物)となる有用な花場や水源など良好な資源のある場所を巣に帰って仲間に伝えるために行われ、尻(腹部)を左右に激しく振動させながら直進し、右回りで戻って再び直進、次は左回りで戻る動きをする。動きは上から見るとアラビア数字の8を描く。
鉛直方向と腹部を振動させ直進しているときの頭の向きの角度が、巣箱から太陽の方向と良好な資源のある場所の角度を表す。直進している時間がその場所までの距離で、ダンス継続一秒間がおよそ一kmに当たる。
かつて、8の字型だけでなく、円型(丸型)もあると考えられたが、円型は8の字型の短縮(短距離)版と判明した。
フリッシュは、長年の忍耐強い実験と観察によって解明した結果を、一九六七年に大著で公表した。ミツバチのダンス解明の功績で、一九七三年にノーベル生理学 ・医学賞を受賞した。偉大な発見であったことは、この研究の成果自体は生理学でも医学でもないにもかかわらず、ノーベル賞の受賞対象になった点にあり、学界に大きな衝撃を与えた。
フリッシュによって明らかにされた「尻振りダンス」は、その後も各国で多種多様な分野で発展的に考究され、さらに複雑な現象を解明し活かす研究が今日も進められている。
ミツバチのダンスの研究は、人間を含めた生物社会の深い理解につながると期待され、人 々の興味 ・関心を惹きつけてやまない。
半世紀以上を経てもなお世界の研究者を刺激し魅了し続けている分野であり、成果の論文が続 々と発表されている。
(完)
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