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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

味を占めた少年

森田宏

 

 母の実家は田舎のお寺だった。お寺の縁側からは日本海の地平線が目の高さに広がっている。視線を下げると、目の前にはれんげ畑が一面広がっている。のどかな風景を今でもはっきりと覚えている。
 四月八日は降誕会、花祭りだ。お寺では前の日から母や祖母が総出で甘茶を作っては大きな甕に入れていく。ぼくは祖父について、れんげ畑を歩きまわる。お釈迦様像をお入れする花御堂の屋根を、れんげ草の赤い花と四季折 々の花では飾っていくためだ。
 降誕会当日は朝から村の人をはじめ農作業に出かける農家の人が次 々にやってきて、お釈迦様に柄杓で甘茶をかけて、手を合わせる。それから水筒に甕から掬って甘茶を入れていく。見慣れた風景だ。しかし、ぼくには特別な楽しみが待っている。そのためにれんげ草を摘んでは花御堂の屋根を祖父と共に荘厳したのだ。
 郵便配達のおじさんが木陰でタオルを首に巻いて、一杯の甘茶で喉を潤わせる。墓地の低い塀を1時間に一本走るバスが音を立てて通り過ぎていく。慌てて甘茶を入れた水筒を揺らしながらバスに駆け込む人もいる。
 現代では想像もつかない暮らしがあった。いよいよぼくの楽しみの時間がやってきた。
 母がホットケーキを焼いてくれて、そのホットケーキの上に祖父がタラーリタラタラと蜂蜜を落としてくれるのだ。甘いという表現では表現しきれない味をぼくは至福の中に味わう。一面に広がるれんげ畑から採れた蜂蜜だ。養蜂家の方が持ってきてくれた蜂蜜だ。
 私は小さい頃にはすでに、蜂蜜の味を占めてしまった。だから、今でも蜂蜜の味に、私はうるさい。

 

(完)

 

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