大阪のアン
「日本から来たんだって! 遠い所から遙 々とご苦労さん。分からないことがあったら、なんでも訊いてくださいよ」
隣のおばさんが、窺うように我が家にやって来た。こちらから伺おうとしていた矢先に、先手を打たれてしまった。
ここは東アフリカ ・タンザニアの寒村。植民地時代が長かっただけに、ずっと搾取され続けて、住民の生活は貧しく惨めであった。独立してまだ7年しか経っておらず、まだまだ発展途上にあった。
貸与された家は、独立後に建てられた役人用の宿舎であった。40度を超す暑さの中、天井の大型扇風機がガラガラと音を立てて回っていた。クーラーなんて洒落たものはない。これでは眠れるのだろうかと不安になった。
一週間ほど、日本から持参したインスタントラーメンで腹を満たした。長旅の疲れが残っていたのと昼間の緊張で、眠ることはできた。しかし、朝起きると、パジャマはびっしょりと濡れていた。
「食事をきちんと摂っているのだろうかと、心配でやって来ましたよ」
また、隣のおばさんが顔を出した。
雨季の最中で、体調を崩しやすいらしい。
「私ん家(ち)は、朝昼晩と蜂蜜を舐めているんだよ。私のふる里から送ってもらっているもので、店じゃ買えない上等品だよ」
そう言って、大きな瓶に入った蜂蜜をくれた。蜂が集めた自然界の栄養素がたんまりと入っていて、雨季のけだるさを乗り切るのにこれに勝るものはないと言う。
おばさんがいろいろと気を遣ってくれるのは、ありがたかった。日本にいた時は、蜂蜜を舐めるのは子供くらいだろうとしか思っていなかった。それが、タンザニアでは雨季を乗り切るのに効果があると、おばさんは力説する。赴任中の3年間、おばさんの好意に甘えて、ずっと蜂蜜の提供を受けたのであった。
(完)
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