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蜂蜜エッセイ応募作品

新婚の嫁、はちみつに気付かせられる

榛葉 智子

 

 結婚相手に、自身を大きく成長させてくれる相手を自然と選んでいるものだ、と、聞いたことがある。
 結婚をし、専業主婦となって早一年。家事だけは、手を抜かずに完璧にこなしたいと頑張っていた。掃除機は毎日かけ、晴れた日にはできるだけ布団を干し、ご飯は一汁三菜を心がけた。
 ある休日の三時に、たまにはホットケーキを焼こう。と思い立つ。はちみつのたっぷり掛かったホットケーキは、夫の大好物だ。夫が昼寝をしている間に焼いて、ホットケーキの焼けるいい香りで目覚めてくれたら可愛いなぁと、私はひとりニヤニヤしていた。
 おたまで、ゆっくりとフライパンへ生地を落とす。生地に泡がふつふつと立ってきたら生地をひっくり返す。その工程の繰り返しのなかで、お皿やバター、はちみつをテーブルに出したときに、はちみつが白く固まっていることに気付いた。
 「冬の間に固まっちゃったんだ」
 私は鍋に水を注ぎ温め、はちみつの湯煎を始めた。ホットケーキが次 々に焼ける中、なかなかはちみつがゆるくならない。すると、主人が起きてきた。やはり、いい香りに連られてきたようだ。
 はちみつが戻らず、なかなかホットケーキを供せないでいると、主人が、まだ?というような顔をする。私は、完璧な状態でホットケーキをあげたかったから、黙ってはちみつを湯煎し続けていたけれど、やはり金色のはちみつのあの状態には戻らない。仕方なく、「ごめんね、はちみつ、まだ少し白っぽいんだよ」と言って、ホットケーキにバターと、まだほんのり白く重たいはちみつをかけた。完璧なホットケーキを夫にあげて、美味しいと喜んでほしかったのに、この時、私はすごく悔しい気持ちだった。しかし、夫の口をついて出た言葉は意外なものだった。
 「これが、いいんじゃん」
 私は拍子抜けした。これで、でも、これも、でもない。これが、いいと言った夫。そして美味い美味いとホットケーキを頬張る夫。私はこのときに思った。そっか、私の完璧は、誰かにとっては全然完璧なんかじゃないこともあるんだ。それに、まだはちみつ硬いけどいい?って、意地を張らずに聞いて、もっと温かい、焼き立てのホットケーキをあげればよかったなぁ。と。
 完璧主義で自分を疲弊させるこの性格を、夫は優しく直していってくれる気がした。これが私にとっての成長なんだろう。それなら、私も夫の何かを成長させるのに一役買っているのだろうか?などと考えながら、仲良くホットケーキを頬張った休日の午後だった。

 

(完)

 

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