須和さやか
小さい頃、私はよく近所に住むじいちゃんとばあちゃんの家へお泊まりに行っていた。ふたりの家は私の家と同様朝食はパン派で、でも確実に違ったのは「はちみつ」だ。
じいちゃんは仕事で家を出るのが早く、たいていばあちゃんが用意した朝食をひとりで先に食べ始める。メニューはほぼ決まっていて、牛乳、果物はあったりなかったり、それにはちみつを掛けたトーストだ。そのため必ずテーブルにははちみつが出されていて、それは私の家では滅多にないことだった。
「これがうまいんだぞー」
いつだったかじいちゃんは横に張り付いて見ている私にそう言いながら、いつものようにどっしりとしたチューブ状の容器からはちみつを絞り出しつつトーストに掛けて言った。朝日を受けて輝きながら流れ落ちる液体に私は目を奪われた。甘い香りとトーストの香ばしさが相まって本当に魅力的だ。
じいちゃんは完成したはちみつトーストを持ち上げると豪快にかぶりつき、あごが動くたびにザクザクといい音がした。それからほお張った分を飲み込むと私を見て、にかっと笑った。
5年前にじいちゃんは亡くなり、私はそれよりずっと前からはちみつに見とれてしまう少女ではなくなった。ただ、我が家にははちみつが常備されていて、毎日ではないけれど朝食にはちみつトーストを食べることがある。チューブ状の容器から搾り出す時もビンからスプーンですくって垂らす時もあるが、忙しい日でもやはり、真っすぐ流れ落ちるはちみつを綺麗だな、と思って見ている。
(完)
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