三号ケイタ
僕がまだ小学生だった頃のことだ。ある日、従兄弟のヨシ君が「ハチの子を捕りに行こう」と言い出した。居間で麦茶を飲んでいた僕達兄弟は、その言葉を聞いてすぐに立ち上がった。僕より五つも年上のヨシ君は、たくさんの遊びを知っていた。ハチの子捕りもその一つである。僕達は家の近所にある蔵に行き、その軒を見上げた。
蜂の巣は、たくさんの六角の穴が空いていてそこに蜂たちがわんさか群がり、その様子はさながら「魔城」という感じなのだった。
「大丈夫かな」僕が言うと、「余裕だよ」とヨシ君は笑った。それからヨシ君はポケットからダイナマイトみたいな筒とライターとを取り出してみせた。
「爆発するの?」弟が心配そうに言って、ヨシ君はまた笑った。僕達に離れているように言うと、ヨシ君は縁の下から竹竿を抜き出して、筒をくくりつけた。それから導火線に火をつけて、巣の真下からかざした。直後、蜂の巣からたくさんの蜂たちが飛び出してきたので、僕と弟は慌てて逃げた。遠巻きに見ると、ヨシ君は少しも動かない。筒からは煙がもうもうと立ちあがり、それからしばらく蜂の巣がどうなっているのか、僕には分からなかった。それからどれくらい経っただろう。煙が収まると、ヨシ君は竹竿で蜂の巣をぽんとたたいた。巣はぽんと下に落ちた。僕と弟は歓声を上げて、ヨシ君に駆け寄った。
蜂の巣はざらざら、ごつごつしていて、穴には薄い膜が張っていた。家に帰ってから、僕達は巣からハチの子を取り出した。ふっくらとして、やわらかい身をつぶさないよう丁寧につまんで、皿に入れた。
ハチの子を巣から全部取り出すと、ヨシ君はそれを料理してくれた。フライパンにバターを落とし、ハチの子を入れ、塩こしょうを回しかけて火から下ろしたものだ。それから僕達三人は、そのとろりとした獲物の味を堪能したのだった。
あれから二十年ほど経ったが、今でも僕は蔵の前などを歩くときには、ついつい軒を見上げてしまうものである。
(完)
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