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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ぶんぶんぶん!

どんぐりころり

 

 大学時代、寮に入っていた。二人部屋で、入学一年目は長野から来ていた四年生のAさんと一緒になった。Aさんは仕送りをもらわず学費も生活費もバイトを掛け持ちしてまかなっていた。勉強家で真面目だったが、お茶目な一面もあってリラックスしているときにはよく鼻歌を口ずさんだ。
 ご飯が炊きあがり、冷蔵庫を開けるときに童謡「ぶんぶんぶん」の鼻歌が聞こえてくると、「蜂の子だ」と思ったものだ。Aさんは実家から送られてくる蜂の子を大切に食べていた。私にも勧めてくれたが、蜂の幼虫なんてと口にすることができなかった。そんな私をよそに、「ぶんぶんぶん、ハチノコだ~」と替え歌にして、おどけてお尻を振ったりする。そして飴色に炊かれた蜂の子を熱いご飯に載せてハフハフと美味しそうに食べていた。
 Aさんは地元の長野で就職を決めた。卒寮の朝、迎えの車に乗り込むときに言った。
 「冷蔵庫に蜂の子を残してきたんだ。ぜひ食べてみて。元気が出るからさ」
 笑顔で私の手を取る。先輩を見送り、部屋に戻って私は冷蔵庫を開けた。見慣れたタッパーにはメモ用紙が載っていた。
 「ぶんぶんぶん! 元気で頑張るんだよ」
 Aさんと過ごした一年間が走馬灯のように頭を過った。部活や友人関係等の悩みをいっぱい相談し、愚痴もこぼした。たくさん支えてもらっていたことに改めて気づいて号泣した。そして、私は初めて蜂の子を口にした。ほろ苦い甘辛い味に涙のしょっぱさが加わり、自分の気持ちを食べているような気がした。喪失感でいっぱいになっていると不思議なことが起きた。お腹がふつふつと温かくなってきて、力がぶんぶんぶんと湧きあがってきたのだ。思わず、「元気で頑張ります」と呟いた。
 あれから三十年以上が経った。Aさんが笑顔で食卓に蜂の子を並べている様子が目に浮かぶ。鼻歌を口ずさみながら。

 

(完)

 

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