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蜂蜜エッセイ応募作品

幸せを噛みしめて

大橋 里香

 

 「ハニーフラッシュ」
 休日の朝、十歳になる娘が往年のアニメのテーマソングを口ずさみながら上機嫌で焼きたての食パンに蜂蜜を回しかける。続いて夫、そして私がそれにならう。家族揃ってハニートーストを頬張る。パリッ、ジュワー。まさに至福の一時である。
 
 子どもの頃、朝食は毎朝食パンだった。バターを塗っただけの非常にシンプルな物であった。小学一年生の時、図書室でくまのプーさんの絵本を読んだ。挿し絵の蜂蜜が夢のように美味しそうでぜひとも食べてみたいと思った。一応母に頼んでみたが、母子家庭であまり経済的に余裕がなかったせいか買ってはもらえなかった。だが、そのことを耳にした祖母が蜂蜜をプレゼントしてくれた。実際に食べてみると予想を上回る美味しさだった。大人になって自由に物を買えるようになったら、必ずや蜂蜜を購入して毎日食べようと心に誓った。
 
 その後、私は大学進学を機に親元を離れ、以来約十三年間一人暮らしをしてきた。その間当然のことながら毎朝の朝食は一人でとった。特に就職してからは、朝は慌ただしいので、前夜のうちにバターを塗った食パンをオーブントースターの中に入れから眠りに就いた。翌朝、身仕度を済ませるとそのパンを焼いて食べた。そのままで食べる時もあったが、蜂蜜をかけて食べることが多かった。なかにはブルーな気分の朝もあった。しかし、そんな時もハニートーストをかじると蜂蜜のやわらかい甘さが口いっぱいに広がり、心にほんの少し余裕が生まれた。
 
 かつて一人だった私は、今では妻になり母になった。一人暮らしの朝食もなかなか乙なものではあったが、やはり家族三人で食べるハニートーストの味は格別である。パンを噛みしめながら、同時に幸せも噛みしめる。
 今朝もわが家に娘の元気な声が響きわたった。
 「ハニーフラッシュ」と。

 

(完)

 

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