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蜂蜜エッセイ応募作品

ずっとこれらかも...

西川 勝美

 

 40代も後半の高齢出産後に私に待っていたのは、激しい痛みを伴う手指のこわばりであった。
 眠るのが怖いほどの寝起きの手指の痛み。母乳を欲しがる娘のため、痛み止めの薬も、治療の薬も飲めないだけでなく、完治することも難しいといわれ、いずれ手指は変形するとの診断。生まれたばかりのあどけない娘の寝顔を見ながら、幸せなはずなのに、痛みと不安で毎日涙の出ない日はなかった。
 
 「可愛い子ね。お乳足りなかったら、やぎのミルクあげますよ。」
 娘が生まれてから、初めてご近所の方 々とゆっくり話せた。みな、優しい人生の先輩方だった。不妊治療の末の高齢出産を揶揄われるのではないかとの心配は吹き飛んだ。笑顔の後ろには、高齢出産で、頼れる人のない私を慮って、助けと労りとを用意してくださっていた。
 「しぼりたての。足りなかったら、また持ってくるから。」
 ずしりと重いヤギのミルク瓶を、私に抱かせてくださった。
 一口飲んだ。染みるようなおいさだった。
 「なんかできることあったらいうて。」
 涙がこぼれた。つらい手のこわばりのことをぽつぽつと口にした。じっと真剣に私の目を見て聞いてくださった。痛みが引いていくような気がした。

 「こんばんは。」
 その日の夜。大きな瓶を抱えた灰色の作業着の男性と、エプロン姿の彼女が再び我が家をたずねてくださった。
 「シナモンと、生はちみつを混ぜて朝と夕に食べてみて。それならお乳にも大丈夫よ。」
 「今年最後の生蜜です。急に言われて。もう少し残していたらよかったのですが。」
 男性は地元の養蜂家だった。出産祝いにと、関節の痛みに和らげるという生蜂蜜とセイロンシナモン。そして鍼灸のツボを彼女は私に無償で与えてくれた。
 朝と夜、私は必ずシナモン生蜜を食べる。手はいつの間にか不自由を感じなくなっていた。娘も病気一つせずに育ってくれた。職場の机の上には、今日もシナモン生蜜の瓶がある。ずっとこれからも ・ ・ ・。

 

(完)

 

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