和田 真理子
冬が来ると懐かしい祖母との思い出がよみがえる。寒いある日、祖母がキッチンの隅で何やらゴソゴソ。「おばあちゃん、何してんの?」と孫娘の声に、見つかってしまった…という表情で振り向く祖母。その唇は、キラキラ輝きキレイだった。ハチミツを唇に塗っていたのだった。四歳児とて、女子は女子、私は即座に「私にも塗って塗って!」とせがんだ。普段は何でも言うことを聞いてくれる優しい祖母が「そんなキレイなお口に塗らんでもよろし。」とアッサリ拒否。「いやや、おばあちゃんだけ、ズルイ!」と駄 々をこねる私に、「子供にはキツイからあかん!」と強い口調。しゅんとしてしまった私が可哀そうになったのか、母と相談の上、子供用の可愛いリップクリームを買ってきてくれた。嬉しくて、すぐに試したものの、祖母のようにツヤツヤにならず、人工的な香りもどうも好きになれず、二回ほど使ってそのままになってしまった。その後も祖母が私に見つからないよう隠れてハチミツを塗っている姿を何度か目撃したが、絶対塗ってくれないとわかっていたので、声をかけなかった。きっと、美味しいからひとりじめしたいんだ…幼い私はそう思っていた。
月日が流れ、ハチミツが乳幼児にはキツイので、食べさせるには注意が必要と知った。そうだったのか、それで、私に見つからないように隠れて塗っていたんだ。それなのに、疑うようなことを思ってごめんなさい。心の中で謝った。
誰に遠慮することなくハチミツを食べられる年齢になった。祖母直伝のハチミツリップのおかげで、今年の冬も艶やかな唇ですごせている。冬だけでなく、一年中ハチミツのある生活をおくっているからか元気だ。おばあちゃん、今度のお墓参りに、ハチミツ持っていくね。
(完)
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