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蜂蜜エッセイ応募作品

「鏡の前で」

永野 勢津子

 

 昔から疲れていると「ローヤルゼリー」を飲んでいた。仲良しの友がバイトで蜂蜜販売の仕事をしていたのが縁で手に入りやすかった。
 小学生の娘の二人連れての離婚で、生活の為に入った水商売で長年身体を壊さずに勤められたのは、この「ローヤルゼリー」のお陰だろう。
 あれから四十年、娘達の結婚やら、私の再婚やらで住み慣れた土地とは疎遠になってしまった。
 近頃、鏡の中の私は、すっかり歳を重ねている。あの頃、贅沢だと思いながら高額を支払って手に入れていた。まずひとさじは胃壁を整へ、目尻や口元には人差し指で残らず取って塗り、シワをピンとのばす。二日酔いもせず、自分に自信をつけ、昼も夜もよく働いた。
 そんな思い出を鏡に映しながら考えていた。
 販売員の彼女、元気でいるだろうか。たしか私と同じ歳だった。
 娘達も更年期に入り、大騒ぎをしている。
 私は自分の経験を話してあげる。
 精神と身体のバランスを保つのに苦労していたことを…
 店も持ち、家も建てた。
 インターネットを開き、生のローヤルゼリーを買い求めることにした。
 「あった!!こんなに高額だったんだ」
 四十年前、あの貧乏生活でよく買えたとしみじみ思った。
 幼い子供を残しては死ねないと思う気持ちが強かったのだろう。
 生きるため、自分の身体への投資をケチらずにいて良かったと思っている。
 七十三最になろうとしているが、大病もせずここまでこれた。
 今私は、笑顔を振りまき「しわ」を沢山作った褒美として、長生きよりもハリ肌が欲しい。
 冬の始まり鏡の前で……

 

(完)

 

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