森 拓也
「オッ、ミツバチの巣がある!」「危ないぞ。近寄らない方がいいよ」「こんな良いものを見逃せるか!」
幸いミツバチたちは蜜を集めに出かけているのか、巣の周辺には数匹しか残っていない。
私の母校、三重県立四日市高校の生物部と長野県の松本深志高校生物部はいわゆる姉妹部?関係にあり、私たちが『合研』と呼んで楽しみにしていた林間学習と臨海学習が毎年交互に行われていた。その合研でキャンプをしていたら、深志高のメンバーが海岸近くの茂みで小ぶりのミツバチの巣を見つけたのだ。
「ちょっと待ってて!」
彼は私を残してキャンプ場にとって返し、生乾きの長い枝を飯盒炊爨中の焚き火に突っ込んで火をつけると、白い煙を上げて燻る枝を持って帰って来た。そして枝の先端を巣に近づけて、無造作に煙でハチを追っ払う。
「採れたぞ!」「まだハチが入ってるんと違う?」「大丈夫。ホラ」
彼が巣を掌に叩き付けるとポロリポロリと白い蛆虫のようなハチの幼虫が落ちて来た。
「まだ小さいけど、旨いぞォ」 言うが早いか口の中へポイッ! 「へっ? 生で食うの?」「蜂蜜もあるぞ」 両手で巣を割ると、茶色いハニカム構造のいくつかの孔に鼈甲色に光る蜂蜜があった。「舐めてみな」「うーん、これは旨いな」「だろ?」「よし! 鉢の子も食べてみるよ」「初めてでいきなり生はキツイだろうから、ちょっと待ってな」
同じ生物部員である手前、負けていられるか!という意地もあった。蜂蜜を少しずつ舐めながら待っていると、コッヘルで何匹かの蜂の子を炒めて持って来てくれた。
「旨いね! これ」 蜂蜜の甘さが口の中に残っていたせいもあるだろうが、プチッと潰れたハチの子からとろりとながれ出す中身はほんのりと甘い。私が蜂蜜を好きになった原点は多分ここからだと思う。
(完)
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