興村俊郎
学校行事として、「ぶんぶんぶん」の曲に合わせて演技することになりました。小学3年生の頃でした。生徒が蜜蜂に扮するため、親たちは放課後、教室に集まって翅を作ってくれました。
厚紙に絵の具で翅を模して描き、鋏で形を整え、腕にゴム紐で取り付けられるようにしたもので、長さは腕が隠れるほどです。
付けてみると、このまま飛べるのではないかと思うほどでした。本当に飛べると思ったわけではないのでしょうが、何度も羽ばたいて飛ぶ真似をしました。高いところから飛んだりもしました。やがて、生徒みんなが群になって走ったり飛んだり、騒がしいこと蜂の巣のようになりました。
このときの翅は、母が作ってくれたもののなかで、いちばんうれしかったもので、鮮明に覚えています。
大人になってから気づいたのですが、あの曲の歌詞にはどこにも蜜蜂と書かれていません。
なのに、翅のおかげで蜜蜂と思い込んでいました。
「おいけのまわりに のばらがさいたよ」「あさつゆきらきら のばらがゆれるよ」と歌詞はありましたが、いちども野薔薇を見たこともありません。たぶん、飛べない私はこれからも見ることはないでしょうが、楽しかったあの思いは、いつも気持ちの中で飛び回っていて、思い出すたび私を元気にしてくれます。
(完)
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