渡辺 碧水
ふと蜂に関する諺 ・格言類を調べてみたくなった。
知られているものに、
「虻(あぶ)蜂取らず」
「泣きっ面に蜂」
「蜂の巣をつついたよう」
「蜂起(ほうき)」
があり、他に「石地蔵に蜂」「牛の角を蜂が刺す」などもあった。
私には「蜂の一刺し」がまず思い浮かんだが、格言に入っていなかった。これは「蜜蜂が一度差したら死んでしまうことから、自分の命をかけて相手に致命傷となる一撃を与えること」を意味する。
意外に思ったので、入っていない理由を探ってみた。自分なりの結論を先に言えば、故事というほど歴史的に古くないからだろう。この言葉が生まれるきっかけは、一九八一(昭和五六)年一〇月二八日と新しい。
このころ、有名なロッキード事件で世界が揺れた。田中角栄元首相が賄賂受領疑惑で問われていた。被告側が必死に無罪を主張している中、検察側証人として出廷し、有罪に追い込んだ女性がいた。首相元秘書 ・榎本敏夫の妻だった榎本三恵子氏である。
裁判で、彼女が田中被告の五億円受領を裏づける重要証言をした日が一〇月二八日。一一月四日の記者会見で 「真実を述べるのは、国民の義務だと思います。……蜂は一度刺すと命を失うと申しますが、人を刺す行為で、私も失うものが大きいと思います」と発言した。
このことから「蜂の一刺し」の言葉が生まれ、当時、流行語にもなった。心に残る言葉だった。
蜂が人を針で刺すと死んでしまうのは事実である。ただし、蜜蜂に限られ、実際に刺すのはメスに限られる。人と接触する機会が多いのは働き蜂=メスだから。針が釣り針型である独特な構造にある。
蜜蜂は、蜂蜜の生産や植物の受粉など、私たちの生活に貢献し、見た目も可愛らしい。おとなしいから、人間から刺激をしなければ刺しに来ることはほとんどない。このことに注意し、ずっと仲良く付き合っていこう。
「蜂の一刺し」は、歴史に残り、やがて格言の一つに加わる日がくると思われる。
(完)
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