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蜂蜜エッセイ応募作品

「まじない」入りホットミルク

丸井

 

 私は子供のころ、「祖母は魔法使いなのではないか」と疑っていた時期があった。
 幼いころの私は一度機嫌を損ねるとなかなか回復しない厄介な子供だったそうだ。祖母はよく私の面倒を見てくれ、両親が仕事で家を空けている際などは、何かと世話を焼いてくれた。
 小学校に上がりたての頃のある日、友達とけんかをして、周囲を巻き込む不機嫌の嵐となって帰宅した私を見かねた祖母は、ホットミルクを作ってくれた。
 「ホットミルク飲みなさい。おまじないをかけておいたから落ち着くよ」と言って。
 初めは勿論まじないなど信じていなかったのだが、一口飲んでみると不思議と落ち着いた。張りつめていた風船がしぼんでいくように、ほっとして、あたたかくて、甘くて、美味しかった。
 その後、祖母が作ってくれたホットミルクを自分でも作りたくて、試してみた。とても甘かったから砂糖が入っているのだろうと思い、砂糖の量を調節したり、塩をちょっぴり足してみたり、試行錯誤を重ねた。しかし、どうしてもあの時の、独特の風味のあるほっとするような味に出会えなかったのだ。
 いつしか「やっぱりおばあちゃんは魔法が使えるに違いないのだ」と密かに畏敬の念を抱くようになっていた。急に祖母の言うことはよく聞くようになり、周囲を驚かせた。
 数年経ち祖母が亡くなってからのこと、「おばあちゃんはよくホットミルクを作ってくれたよね。蜂蜜が入ってて美味しいんだよなあ」と母が零したことによりこの件はあっさり解決してしまうのだが、まじないのタネが分かった今となっても、蜂蜜入りホットミルクは自分にとって特別な飲み物だ。

 

(完)

 

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