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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

貰った蜂蜜

河上輝久

 

 「兄ちゃん蜂蜜要らんか?」
 洗濯物の集配に行くと、お客さんから言われた。
 「嫌いでは無いから」
 その時の私の家では、高価な蜂蜜を食べれるほどの所得は無かった。他人に正直には言えなかった。しかし、お客さんから戴いた。貰った私は、ニンマリとした。
 「食パンにこれを塗ってくれ」
 急いで帰宅した私は、妻に言った。
 「これ蜂蜜と違うの?」
 妻の言葉は無視した。一刻も早く食パンに塗った蜂蜜を食べたかった。口に入れると、何とも言えない甘みが、口の中に広がった。極楽の味だった。
 ふと見ると、妻が蜂蜜を食べようとしていた。
 「食べるな! それは高いから」
 その言葉に妻は、私を憎 々しく睨み付けた。だが、私は怖くはなかった。これだけは、妻には分けてやる訳にはいかなかった。
 「リンゴでも蜜柑でも好きなだけ食べさせてやるから。これだけは駄目だ」
 「ふん! 覚えていらっしゃい」
 捨て台詞を残して台所に消えた。
 夕食の時間になっても妻は、支度をしなかった。
 「ご飯はまだか?」
 妻は素知らぬ顔をしていた。だが、何が起こっても蜂蜜は分けてやらなかった。

 

(完)

 

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