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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

息子よ……

三郎

 

  病室の窓から、一面にレンゲの花が咲いた田んぼに目をやっていた息子が、「今度来る時、『みなしごハッチ』の絵本、買ってきてよ」とねだった。
 「ミツバチが見えるのかい?」と問う私に、「見えるわけないじゃん。あれこれ考えてると、時間が短くなるんだもの。どうしてハッチはパパの方は探さないのかとかさ」と、六歳の返答はちょっと大人びていた。

 

 ……声はか細く、顔が土気色になっていく息子。
 深夜、「風邪なんかじゃない!」と看護婦詰め所を三度往復した妻。やっと来た宿直の医師は息子の腹に手を置くなり慌てた。息子は腹膜炎に罹っていたのだった。
 手術が終わり、トレイの血まみれの肉片を見せながら医師が言った。
 「危なかった。この子の命を救ったのは、お母さん、あなたですよ」

 

 その息子の退院の日。
 「おじいちゃん、早く元気になってね」と挨拶する六歳に隣のベッドの老爺(いつ行っても石像のように天井を見つめていた)の唇が微かに動いた。
 「あなた、何?」と耳を近づけた付き添いの老婆が顔を挙げて驚いた。「実の息子が見舞いに来ても顔色一つ変えないのに『いい子だ』って」

 

 ――それから三十年余、息子が不思議がる。
 「俺ね、ミツバチや蜂蜜の瓶を見るたび、『みなしごハッチ』と俺を『いい子だ』と言ってくれた爺さんの顔を思い出すんだ。その言葉に救われたこともあるよ」

 

(完)

 

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