コンテツ
昨年、伯母が満九十七歳で亡くなった。妹である私の母は早くに亡くなったこともあって、面影が似ている伯母は特別な存在だった。私が趣味で日本蜜蜂の養蜂を始めた時、巣箱を庭に置かせてもらい伯母宅に出入りしたのもある意味で顔を見る口実だった。その巣箱に蜜蜂が入った時も、初めて採集した蜂蜜をプレゼントした時も、一番喜んでくれたのが伯母だった。
気丈で健康が自慢の伯母ではあったが、さすがに脚が弱り、数年前に介護施設に入った。ボケることもなく、施設では趣味の俳句 ・短歌を詠んだりしながら過ごし、誰しも百歳までは生きるものと思っていた。だが亡くなる4か月前、脳梗塞を患い意識が戻らないまま亡くなってしまった。
脳梗塞を患う少し前に施設の伯母を訪ねて採集したばかりの蜂蜜をプレゼントした。私の蜂蜜をとても気に入ってくれていて、常食していると聞いていたからだ。その日も、いつもの笑顔でたいそう喜んでくれ、早速ひとさじその場で味わった伯母だった。
そしてこれは葬儀後の直会の席で従兄弟から伺った話である。脳梗塞で脳の大半が不全状態となっていて家族の呼びかけにも全く反応しない状態だったのだが、亡くなる数日前にスプーンで蜂蜜を口元に持ってゆくと、おそらくは無意識で条件反射的にではあろうが、口を動かして舐めたのでその場にいた皆がビックリしたとのことだった。その表情はとても柔和で穏やかに見え、満足そうだったという。
いつも食していた蜂蜜の不思議な甘さと香りが、最期が近づき意識さえほぼ無い伯母の心を、ささやかだが満たしたのではないか。そう思うとなんだか嬉しい。
蜂蜜の香りや味には、人の脳の深層部に直接作用するような奥深い不思議なパワーが秘められているのかもしれない。脳の深い部分で記憶した美味しい記憶は、人を間違いなく幸せにする。
(完)
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