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蜂蜜エッセイ応募作品

ハチの巣箱

北方 とし子

 

 私が彼女と、初めて出会ったのは、美術展授賞式での事です。
 私達は意気投合して、その翌日彼女の家に招かれました。
 その頃の彼女の家は、広い畑の入口に、赤と青のシンボルマークの看板が、くるくると回っていてのどかなたたずまいでした。
 「私の宝物を見てちょうだい、何か分る?」木箱がいくつか、並んでいるけれど、
 「分からない、これは何なの」
 「ハチの巣箱よ」
 「エッ!ハチ怖くないの」
 「今はお留守、蜜を集めに行ってるわ」
 彼女は昔から、ハチを飼っているそうだ。
 
 その数日後に、電話があり
 「化粧しないで、すぐおいで」と言うので、急いで行くと、店の大きな鏡の前に私を座らせて、自家製のハチ蜜パックを、してくれると言う。
 長 々と説明をしてくれたが、一言でいえば、どうやら色が白くなり、肌が美しくなるらしいい。
 パックタイムが終わり、鏡に映った自分を見た私は、思わず声をあげた。
 「わぁ~ きれい」
 「ねっ でしょう」
 「ホンマや」
 その後、何度かハチ蜜のお世話になった。
 
 しばらくして、理髪店の横にパイバスが出来て、マンションが建ち、まわりは住宅地となり、ハチの巣箱は消えてしまい、彼女もいなくなってしまった。
 文明は便利だけれど、大切なものが失われて行く。
 今頃あのハチの巣箱があり、彼女が生きていたら、私はもっと、きれいな七十歳になっていただろうか。

 

(完)

 

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