つまみ
コポコポコポ……
母は毎朝コーヒーを入れて飲んでいる。あるときはサイフォンで、またあるときはコーヒーメーカーで。その時 々にブームがあって、私に違いはわからない。
私が小学生の頃からだから、二十余年続く朝の習慣といえるだろう。
まずは香りを味わって、湯気を吸い込み「う~ん」と一声。コーヒー好きの母曰く、
「インスタントはダメ」らしい。ミルクは最近、歳のせいか胃の保護のためにほんの少し入れるけれど、砂糖を手に取ることはない。
母が硬派なノンシュガー?
そんなことがあるわけもなく戸棚の奥から大切そうに、そーっと魔法の瓶を出す。琥珀色に輝くそれは、なんとも贅沢な『国産蜂蜜』だった。母はまるで遠足前の子どものよう。「うへへ」とうきうきワンスプーン、黒に溶け出す魅惑の甘味を「ほうっ」と眺めて弧を描くのだ。
一口すすってうっとり顔の、母が言うには
「丸みがちがう」と。
ただただ甘けりゃいいはずもなく、甘みの奥のまろやかさこそ『国産蜂蜜』の美点らしい。
子どもの私ももちろん味見と、ホットミルクを差し出して、時 々魔法をかけてもらった。
その威力は凄まじく、私は大人になっても尚、コーヒーよりも蜂蜜に親しんでいる。
(完)
https://blogs.yahoo.co.jp/tumami_m
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