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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜と紅い実

唐 辛子

 

 私が六歳のころ、父に連れられ知人宅を訪れた時のことです。広いお庭に面したお屋敷にすっかり魅了された私は、大人の目を盗み探検に出たのでした。数えきれない部屋、曲がりくねった廊下、人が入るくらいの壺、石灯篭。  
 中でも目を引いたのは廊下のわきで咲く小さな紅い実でした。その枝ぶりは幼い私にも手が届く高さで、キャンディーのような紅い実のきれいなことと言ったらありませんでした。私は思わず紅い実の魔力に負け、その実をちぎると、ためらいもなく舐めてみたのです。
「うわぁぁぁ、痛いよー」私は一瞬にして飛び上がり、手足をバタバタさせて泣き叫びました。そう、紅い実の正体は唐辛子だったのです。何度うがいをしてもその燃えるような痛みは取れず泣き叫ぶ私に、父も困り果てていました。
 するとそのお屋敷の奥様が、何やら小さな壺を持って私に駆け寄り、「あーんして、はちみつですよ」と私の口にひとさじ、蜂蜜を滑り込ませたのです。すると燃えるような痛みは薄れ、何口か蜂蜜を舐めるたびにその痛みは無くなっていきました。涙が止まったのはもちろん、蜂蜜のおいしさに最後はニコニコせずにいられませんでした。これが私と蜂蜜の衝撃の出会いだったのです。
 以来、私はどんな時もそばに蜂蜜を離さず、朝、目覚めるとトーストにぬり、蜂蜜紅茶に舌鼓を打ちました。しかも蜂蜜を毎日食べることでもっと素晴らしい贈り物を、知らずに受け取っていたのです。
 「あなたのお通じがいい訳は、蜂蜜を食べているからですよ」と漢方医の先生に褒められたのです。蜂蜜は六歳の私を助けてくれただけでなく、六十年経った今も私を支え続けています。「良薬は口に苦し」ということわざがありますが、蜂蜜はまさに「良薬は口にうまし」の、私にとって大切な宝物です。

 

(完)

 

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