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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

箱にのせて

川路崇博

 

 今年もトラックに箱を山ほど載せたおじさんがやってきた。
 家の田んぼにはレンゲが咲き誇り、春の訪れを告げるには遅すぎるくらいである。
 「今年もよかったよー」
 おじさんは麦わらをちらりとめくってそう言った。
 私の住む地域は、田んぼにレンゲが一面に花咲く。私たちにとっては単なる肥料なわけだが、それでも幼少時は一気に暖色が広がる様に、世の中の循環を自然に感じていた。もちろんおじさんはレンゲの蜜をミツバチで拝借しているわけだ。
 そしておじさんはしばらく地域に滞在し、いつの間にか北へ北へと紀行していくのだった。玄関に蜜たっぷりのけっこうな大きさの瓶が置いてあり、それが旅立ちの合図だった。
 私の成長とともに生活圏が地域に留まることがなくなり、生活の速度と季節の速度にすれ違いが生まれた頃、おじさんのこともすっかり忘れてしまった。そして、進学とともに地域から離れると、いよいよ記憶からは遠のき、彼方となってしまった。
 のちに都会へと軸を移したものの、物理的に地に足がついていないと不安になるのか、頻繁に野営へと出かけて山にとっぷり飲まれる週末を楽しむようになっていた。そんな高速道路での道すがら、あのトラックが走っているのを見た。
 「おじさん!」
 運転手はよく見えなかった。ただ確かにアスファルトの光の波長は長く、暖かだった。
 彼らも乗っているんだ。いつでも私たちは循環の理の中にいる。

 

(完)

 

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