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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

6月のソナタ

八代 穣

 

 少年のころカレンダーを前にして、昨年あった行事例えば運動会、臨海学校、祭りを思い出して、今年はいつかなあ、と兄妹たちと語り合った。そんな中でボクは、なぜか6月の季節に思い入れが深かった。
 白いアカシアの花が咲きはじめる初夏である。入梅にそぼ濡れ枝から垂れ下がった数珠のような白い花は、女性の濡れた髪のよう……。6月も中旬になり晴天が続くと、飛ぶ虫たちがその花に群がる。生暖かい午後の林の中は、ブーン ・ブーン飛び交う虫たちの楽園にかわるのだ。
 学校からの帰り道、遠くの方の林から、匂いと羽音が風に乗って流れてくる。ボクはランドセルを部屋に放り出し、薄暗いアカシヤの林に駆け入る。香りが辺り一面に漂い、蜂が花に群がっている。蜜蜂は熊蜂をおそれる様子もなく、熊蜂は追い払うわけでもなく、仲よく蜜を吸っている。お腹をふくらませ花を飛び去る蜂、花から花に飛び移る蜂、急降下で飛んで来る蜂、その動きはめまぐるしく見ていて飽きない。
 いつしかボクは、夢の世界に入ってしまった。
 熊蜂の王子とアカシヤの香姫が、大勢の蜂蜜の兵隊を従えて、ヤットコ ・ヤットコ城門に入って行く。ラッパ兵の吹く行進曲は6月のソナタ、蜂蜜の兵隊は城をぐるりと取り囲んだ。
 「すばらしい集いじゃ、王子に姫、蜂蜜の諸君、アカシアの蜜で宴会をはじめよう」
 大熊蜂の王が、城の上を飛翔しながら杯をかざし宣言すると、蜂蜜兵たちは「オー」とヤリを高らかにかかげた。
 
 「まあ坊や、居ないと思ったら……」
 母の声で、ボクは草むらから起き上がった。静かな森の夕暮れであった。

 

(了)

 

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