飛鳥
はちみつが白く固まってしまうのは、大抵の場合、冬だ。
私はこの、ガラス瓶の中の結晶を幼いころに初めて見た。
あんまり珍しいものだから、そこにいた母をつかまえてこう言った。
「はちみつにも冬が来るんだね!」
母は笑いながら教えてくれた。
「これは、はちみつの結晶だよ」
私はスプーンで一口すくって食べてみた。
何とも、ザリザリとした独特の風味がした。
「おいしくないでしょ」
と、茶化す母に私は何故か意地になって、
「おいしいもん!」
と答えた。
だが、このあと食べるために用意してあったホットケーキの生地を見つめると、あのザリザリが何回も続くのは流石に嫌だと思った。
正直に、
「やっぱりトロトロのほうがおいしい」
と認めると、母はそれ見たことか、という表情で鍋を取りに行った。
鍋にお湯を沸かし、はちみつの瓶ごと湯煎にかけ始めた。
さっきまでの真っ白いはちみつが、まるで魔法のようにトロトロに輝いては溶けてゆく様子に、私は釘付けになってしまった。
そのあと、たっぷりのはちみつをかけたホットケーキの美味しさは、三〇年たった今でも忘れることができないほどだった。
大人になった現在も、旅先ではちみつを見つけると、つい買ってしまうこともしばしばある。
あの時のはちみつの結晶のおかげで、私は前よりもっとはちみつが大好きになった。
(完)
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