山本 真理子
パソコンで検索をしていたところ、私はこの「蜂蜜エッセイ」なるものを見付け、「最優秀賞に選ばれるとアカシア蜂蜜二 ・四kg貰えるんだって」と母に言うと、母は「是非応募して!」と言い出した。
母は現在八十七歳の引退間近の現役美容師である。若い頃には、日本を代表してカナダでの美容の世界大会のステージも踏んできた。そんな母は、蜂蜜大好きである!
この年齢だけあって、母は戦中戦後を経験している。母達はちょっと変わった事に、戦中を中国で過ごしてきた。祖父の希望で天津に移り住んでいたのである。戦勝国民として、中国で随分豊かに暮らしていたそうだ。戦中を日本で暮らしていた方 々に申し訳ないとすら言う。祖父は数億円を残した人で、家族の健康には人一倍気を使っていた。しかし中国は水が悪くて緑茶が飲めない。そこで紅茶を飲んでいた。そしてお供でテーブルに頻繁に登場していたのが、砂糖の代わりの蜂蜜だったのだ。母にとって蜂蜜は、中国での豊かな日 々の象徴である。
やがて終戦となり、戦争に負けた日本人を殺そうとする中国人の元から、母達は取るものも取りあえず日本へと逃げ帰ってきた。直前まで日本兵と戦う為に使われていた筈のアメリカの上陸用舟艇が迎えにきてくれて、母達は日本まで送り届けてもらったのだそうだ。しかしその直前に母の母は結核で亡くなってしまった。戦勝国民のまま蜂蜜もふんだんに食せられていれば、母の母、祖母も持ち直してくれていたかも知れない。中国では死者は軽んじられ、遺体に土を載せて土饅頭にされるだけである。土は時と共に吹き飛ばされ、骸骨があちらこちらに転がっていたと言う。日本に帰りたがっていた祖母が、せめて日本の土に返られていればと思うと、戦争を知らない私も涙が溢れ出してくる。
そして母は蜂蜜を好物にして、今も八十七歳にて現役で、元気で店に立っている。
(完)
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