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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

優しい侵略者

オウンゴール

 

 生まれてから三十年間続いた独身時代。朝食はご飯と決め、地方赴任の際も炊飯器を持参した私。だが、新妻という異邦人が私の食生活を一変させた。「朝はパンでいいよね」と言う新妻の笑顔に、抵抗できなかったのだ。
 焼き上がった食パン二枚とバターナイフ。「バターは冷蔵庫の中」と妻は言う。「厚切りの方がおいしいでしょ?」「うん」「コーヒーの淹れ方を覚えてね」「うん」……終始、妻のペースである。金縛りに遭い、異邦人に領土を奪われたような気分で、新婚の数か月が過ぎた。何か、抵抗できないものか。
 ある朝、「毎朝、食パンにバターって単調だ」と、勇気を振り絞って言ってみた。すると、妻は「そうね。変えてみようか」とあっさり私の発言に同調してくれたではないか。やった。これで、もしかすると、朝ご飯にありつけるかもしれない。失地回復だ。
 しかし翌朝。焼き上がった食パン二枚とバターナイフ。「今日は、明太子を塗ってみようよ」「うん?」「友達が意外とおいしいと言ってたの」「そうか」……私は、黙 々とバターナイフで明太子を塗った。
 さらに翌朝。「今日は、海苔の佃煮にしてみようよ」「うん?」「おいしいかったら友達にも勧めるから」「そうか」……私は、黙 々とバターナイフで海苔の佃煮を塗った。そして食後に、「やっぱりバターでいいよ」と呟いた。ついに白旗を上げたわけである。
 その翌朝だった。「バターの上に蜂蜜を塗ってみる?」と、優しい侵略者が私に提案したのだ。「おお!」と、笑顔を取り戻す私。おいしい。これはいける。「蜂蜜にもいろんな種類があるのよ」と、敵も上機嫌である。
 あれから、三十年以上の月日が過ぎた。我が家の朝食は、相変わらず食パンだ。蜂蜜の瓶は何種類か並んでいる。その朝の好みで自由に選ぶというスタイルになった。蜂蜜を紅茶に入れたりもする。そして、珍しい蜂蜜を買って来るのは、私の役目となっている。

 

(完)

 

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