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ミツバチと共に90年――

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こまっちょ

 

 「痛い痛い痛い」身長一五〇cmの小さな身体は震えていた。顔を赤らめ、黄色い声をあげる。私、二十歳の時。春を探しに尾瀬に一人旅。ちょうどお昼前の出来事だった。空腹の蜂に刺されたか、太ももが腫れ上がった。その時見知らぬ男性の声。「大丈夫ですか」大丈夫なはずがない。ジンジン大きくなる痛みと不安。男性に担ぎ込まれた私はそのまま三途の川を渡るような気持ちでいた。死ぬのか、このまま死んでしまうのか。処置が終わり、病院を出ると男性の姿はなかった。受付簿に「小松崎」と名前があった。
 結局お礼も言えず、この騒動は終焉を迎えたように見えた。しかし、帰りの駅のホームで男性によく似た人物を発見する。でも神様は意地悪だ。私とは逆のホームで電車は発車ベルを鳴らす。小さな使命感が私を走らす。ドアが閉まると同時に「駆け込み乗車はお止めください!」の声。私に向けられた怒号、そして視線。その視線の中に男性がいた。ゆっくりと進む列車の中で私たちは意気投合した。ひと駅過ぎ、またひと駅過ぎ。不思議とこの時人生のコマが少しずつ前に進んでいるのを感じた。彼もそして私も。ゆっくり進んでいた列車。その列車が終点に着いた時には私は既に「小松崎」として折り返すことになっていた。何がそうさせたか、今でもふと考えることがある。はっきり言えるのは彼の語っていた夢のこと。彼は介護福祉士を目指していた。お年寄りの人生の帰り道に寄り添いたいと。その時、私も誰かの人生に寄り添いたいと、そしてそれが彼ならと願った。数年のお付き合いを経ていよいよ入籍をすることになった。入籍日は「八月八日」。もちろん、私たちを巡り合わせてくれた「はち」にちなんでこの日に決めた。蜂が運んできてくれたのは痛みというカタチの丸い縁だと思っている。また今年もカレンダーのあの日には大きな赤い丸をこっそりつけておこう。

 

(完)

 

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