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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜トーストの午後

木山蒼士

 

大学の近くに、小さな古民家カフェがある。木目の扉を開けると、ほのかな甘い香りが漂い、時間がゆっくりと逆流するような感覚になる。

そのカフェでは、いつも蜂蜜トーストを頼むと決めている。厚切りのパンに黄金色の蜂蜜がたっぷりと光り、ナイフを入れるとやわらかな香りが立ち上る。初めて訪れたとき、その懐かしい匂いに、祖母の顔がふと浮かんだ。

祖母はよく、手作りの甘酒やヨーグルトに蜂蜜を溶かしてくれた。体に良いと何度も話していたから、僕の体調を気遣っていたのだろう。都会での一人暮らしが長くなるにつれ、その記憶は薄れていたけれど、カフェで一口食べた瞬間、あの温かな日常が鮮やかによみがえった。

それ以来、講義やアルバイトで疲れた日の午後、僕はそのカフェに足を向ける。窓際の席でノートパソコンを開き、トーストを頬張りながらレポートを書く。蜂蜜の深い甘さが口いっぱいに広がるたび、祖母の笑顔や台所の木の匂いがふわりと脳裏によみがえる。

先日、思い切って祖母にその話をした。電話口の向こうで、祖母は少し照れたように笑い、「今度帰ってきたら、その蜂蜜トーストを作ってちょうだいね」と言った。「僕にはあんなおしゃれなの作れないよ」と僕が返すと、「じゃあ、おばあちゃんが作ってあげるね」と元気な声。「でもおばあちゃん、その蜂蜜トースト食べたことないでしょ」と二人で声を出して笑った。

大学生活は毎日が足早に過ぎていく。けれど蜂蜜トーストを前にすると、時計がほんの少しゆっくり動き、遠く離れた家族と同じ時間を分かち合っているような気がする。
やっぱり蜂蜜は、ただの甘味料ではない。瓶の中に閉じ込められた黄金色には、時間を超えて人を結ぶ力がある。もしかしたら世代を越える「ひとさじの物語」なのかもしれない。

今日もまた、大学からの帰り道、あのカフェの扉を押したくなる。

(完)

 

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