窓野ラムネ
大学時代、単位の取りやすさだけで選んだ講義の教授がふと、ある募集を募った。
「僕の知り合いが養蜂をしているんです。希望者がいれば一緒に見学に行きましょう」
講義自体の記憶はほとんどないのだが、養蜂に関する授業でなかったことは確かで、その提案だけが今も忘れられない。私は何となくその突拍子もない課外授業に興味が湧き、その日の夜に教授へ参加希望のメールを送った。講義を受けていた人の中に親しい人はいなかったので、誰とも相談をせずに決めたことだったが、こんなに面白そうなのだから誰かしら参加するだろうと思っていた。
当日、現地に現れたのは教授だけだった。私は思いがけず教授と二人で養蜂見学を行うこととなり、私が参加すると言わなければ教授もわざわざ出てくる必要なかったのではと申し訳ない気持ちになった。しかし教授は、「参加者がいてくれてよかった。こういうのは誰かと一緒の方が楽しいからね」と、品のいい笑みを浮かべた。
そこでは屋上を活用した養蜂が行われていて、広々とした日当たりの良い空間には整理された緑が生い茂り、その一角に巣箱が設置されていた。屋上なので、光るような緑に空の青が随分近い感じがして、天国ってこんな感じかもとぼんやり思った。
巣箱を見せてくれたおじさんは、その仕組みや構造を説明した後「蜂の巣食べてみる?」と私に尋ねた。
私はこれまで、何に対しても誰かの反応を伺ったり周りがどういった選択をするかで物事を決める人生を送っていた。正直、この養蜂見学だって今までの自分なら誰かと相談をしてからでないと絶対に参加しなかった。だけど私はこのとき初めて自分の興味関心だけで、ここまでやって来た。せっかく来たのだから、見た感じ不味そうな蜂の巣だって食べてみないと勿体無いと思った。
屋上の端に張られたテントの下は休憩所になっていて、私はそこで食べやすいサイズに切り分けられた蜂の巣と対面した。恐る恐る口に含み噛み締めると、柔らかい木の束を噛んでいるような歯触りがした後、そこからどんどん蜜が溢れてくるのが分かる。微かにミントのような爽やかな風味が鼻を抜けた気がしたが、それが何によるものなのかは分からなかった。私にとって蜂の巣は、結局掴みどころのない味のままなのだが、何か新しいことに挑戦しようとするとき、私はいつもこの蜂の巣を噛み締めた瞬間のことを思い出し、一歩踏み出す勇気をもらっている。
(完)
蜂蜜エッセイ一覧 =>
蜂蜜エッセイ
応募要項 =>
Copyright (C) 2011-2026 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.